Beast Voice Zero Corsswind作
「どうした大樹?」
 健児は友人の大樹の顔を覗いた。明らかに青ざめた顔をしていたのだ。
「なぁ健児、この着信どう思う?」
「このメッセージ……小林 大樹ってお前じゃん」
 それは未来の自分からのメッセージだった。
「何々?何か面白いことでもおきたか?」
 後ろにいた貴斗が興味本位に携帯を覗いた。
「早く再生しろよ」
「うん……」
【小林 大樹 5月14日 23:18】
『うん、わかった。ありがとう貴斗、じゃあ……あれ?変だな何か眼が……うわぁ〜〜』
「これだけ?」
「うん」
 これだけでは何が起きたかわからない。貴斗の発言を聞くまでは…
「お前ん家、犬飼ってたっけ?」
「えっ?」
「途中から犬の鳴き声が聞こえるんだけど……」
 そう貴斗には大樹の声が犬の鳴き声にしか聞こえなかったのだ。それは健児も同じだった。
「大丈夫、誰かのいたずらだよ。ほらこんな映画もあったし……」
 健児は大樹を慰めた。
「だといいんだけど」
「そうだといいんだけど……」
「じゃあ、僕はここで……」
 そう言って健児は大樹達と別れた。

 翌日健児は普段通りに登校していた。
(ん?)
 後ろから柴犬がついてきていた。
(捨て犬か?おっとまずい遅刻遅刻)
 捨て犬に構ってる暇はない、健児は先を急いだ。それでも尚この柴犬は健児の後をついてきた。
「ついて来くるなって……あっ!」
 交差点に差し掛かったところ、左から原付自転車が近づいていた。運転手は健児を避けたが、転倒して後ろについて来た柴犬を轢いてしまった。
 その後健児は警察の事情聴取を受けた。相手の前方不注意、および一時不停止が原因だったのでそんなに時間は取られなかった。学校に着いたのは2時限目の終わりだった。
「健児大丈夫だった?」
 隣の席の女子が健児に話しかけてきた。
「僕は平気だけど……」
「けど?」
「後ろについてきた柴犬が轢かれてね、なんだか気分悪い」
 あの時自分が急がなければあの犬は死なずに済んだだろう、健児は罪悪感を感じていた。
「そういえば、小林のことなんだけど……」
 そう女子から切り出された、辺りを見てみると大樹の姿が見当たらない。
「大樹がどうした?」
「昨日から行方不明なんだって、なんでも部屋にいたはずなのに携帯だけがベットの上に置かれていなくなってたとか……」
 その話を聞くと健児は昨日大樹が話したあの着信を思い出した。
「ねぇ、その部屋に犬がいたとか」
「あっ、そういえば柴犬がいたらしいよ」
 その言葉を聞くと健児はさらに怖くなった。当たり前である、自分の目の前で柴犬が轢かれたばかりだったからだ。
「(…違うよな)貴斗知らない?」
「伴田君?何か気分が悪いからって保健室行ったけど……」
「ゴメン、僕も気分悪いから保健室行ってくる」
 健児は急いで保健室に向かった。保健室に来た健児はすぐさま貴斗が寝ているベットに近寄った。
「貴斗……」
 貴斗はベットの上で震えていた。
「健児か……」
「大樹の話……」
「その話やめてくれないか」
 昨日の様子とはえらく違った。
「どうかしたのか?」
 そう貴斗に訊いた。すると貴斗が健児に携帯を渡した。
「……嘘だろ」
 携帯には大樹と同じく、自分からの着信履歴が入っていた。
【着信一件ー5月15日 18:32 伴田 貴斗】
『どうした貴斗!……貴斗?……うわぁ〜……』
『助けて…健児……』
『来るな、来るな〜!』
 貴斗にも大樹と似た着信が入っていたのだ。
「……僕の声、それと鷹かな?」
 健児にはそう聞こえた。
「鷹、健児にはそう聞こえるのか……」
 やはり貴斗と健児とはこの鷹の部分の聞こえ方が違った。貴斗にはこの鳴き声の部分が自分が健児に助けを求めてるようにしか聞こえていない。
「でもまだ決まった訳じゃないだろ!」
「……なんか俺……怖くなってきた。健児、頼むから一緒に帰ってくれ」
「嫌だよ、僕の声だって入ってるし……」
「頼む!」
「……わかったよ」
 健児は渋々承諾した。

 下校途中、天気予報では雨となっていたが、思い切り外れて晴れていた。
「なぁ、後何分ある?」
 そう貴斗に訊かれ健児は携帯で時間を確認しようとした。
「……あれ携帯がない」
 最近、健児は携帯を家に置き忘れる事が多かった。仕方なく貴斗は自分の携帯で時間を確認した。
「あと、2分か……」
「大丈夫だよ」
 慰めるつもりで健児は貴斗にそう言った。すると貴斗が突然泣き出した。
「…どうした貴斗」
「健児、ホントにゴメン、俺獣になるの嫌なんだ……」
「……!?」
 健児は貴斗の携帯を取り上げてもう一度携帯をみた。Eメールの送信ボックスにこんなメッセージが残されていた。
【宛先ー滝川 健児 件名ーFw:獣化転送】
「どういう事?」
「転送したんだ、君の携帯に…」
 貴斗はもう一つ携帯を取りだした、健児の携帯だった。
「本当に済まない!」
 貴斗は健児の携帯を地面に投げつけた。
 貴斗は健児から離れた。健児は貴斗を捕まえようとした。だがもう遅かった。身体が熱くなり、痛み出した。骨が変形し始めたのだ、足が短くなり、かぎ爪となった。腕が徐々に後ろにまわり翼に変化し、翼が生成したことに伴い胸骨が発達し、竜骨突起が形成された。そして口が前方に延び、硬化して嘴となった。そして身体が羽毛に覆われ、最後に小さくなっていった。
『貴斗〜!』
 もう既に健児は人の言葉を話していなかった。
「これしか方法がなかったんだ!」
 貴斗はそう言うと鷹と化した健児の前から逃げた。獣化したばかりの健児は空を飛ぶこともままならない、健児は貴斗を追うことができなかった。
 残された健児は空を見上げた。悔しさ、悲しさが込み上げ大声で叫び続けた。だがいくら叫んでも鷹の鳴き声が空に響くだけだった。

 翌日、貴斗は健児が獣化した場所に足を運んだ。だが既にそこには鷹の姿は無くなっていた……。


FIN
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